6度結婚したことで有名なあの王様
ロンドンで暮らしていると、ヘンリー8世関係の史跡が多いことに気が付く。
イングランド国教会設立によって英国史を大きく変えたこの王様、一般的には
「6度も結婚して、しかも男の子が生めない妻は処刑した、好色で無慈悲な巨漢」
というイメージが強いのだが、非常に美食家だったということでも知られている。
そんなヘンリー8世の飽くなき食欲を満たした宮殿、それがハンプトン・コートである。
英国の美食を探究する者として、これは詣でにいかねばなるまい…!!
山吹色の壮麗な宮殿、ハンプトン・コート
というわけで、ロンドンから2時間弱かけてやってまいりました。
最寄りの駅には親切にも日本語の案内が!!ありがたい。
歩いていくとなんだか巨大なものが目に入ってきます。
ひえー!!想像以上に大きいぞこの宮殿!!
入口で中世風のマントを借りることができます。リッチになった気分。
巨大な迷路付き英国庭園もあり、正直見どころしかないのですが、
まずはお目当ての「ヘンリー8世のキッチン」に向かいます!!
まずは「大工頭の中庭」というところにやってきました。
ここに英国全土+海外から荷馬車が毎日やってきて
大量の食糧を運んできたのだそうです!!既にうらやましい。
ヘンリー8世は不衛生で疫病蔓延状態のロンドンを嫌って頻繁に
ハンプトン・コートにやってきたそうで、そうするとお供の人も含め
1日500人以上にごはんを提供しないといけなかったとのこと。
それはまあひっきりなしにご飯を運ばないと持たないですね…。
そうやって運ばれてきた品物・運んできた商人を残らず記録したのが
上の写真の2階に所在した会計室(ボードオブザグリーンクロス)。
さぞかしブラックな労働環境だったろうと思いきや逆に王権を盾に
商人を恫喝して安く買いたたいて差額を懐に収めるなど山城屋ばりの
あくどい会計官が多かったそうな。ぬしも悪よのう…。
そんな地獄会計を無事に通過した食べ物たちはここ「ゆでもの室」へ。
ん?でもお鍋がひとつしかないように見えるんだけど?
…なんと何百個ものお肉の塊を一つの鍋でゆでていたそうな!!
「効率的」って書いてあったけどそうか?すごい灰汁が出そうだけど。
ちなみにこのゆでもの室勤務の人は余ったご飯を持って帰れたそうです。
そういうのっていいよね。働くならこのゆでもの室かな(じゅるり)。
ゆでもの室を過ぎると「フィッシュコート」に出ます。
ここは魚介類や乾物を保存する場所。空気がひんやりしています。
ひとつひとつのドアがすべて倉庫につながっており、機能的。
さて、フィッシュコートを過ぎるといよいよ、大調理室へ!!
入ってすぐめちゃくちゃ興奮してしまいました。めっちゃ広い!!
ここでは6つの炉で1日450人分のお肉(牛、羊、豚、鹿等)を焼いており、
一日中ぼうぼうと燃える火が黒煙を吹き出しながら肉を焼き続け
屈強な使用人たち(力仕事だったのでほぼ男性だったそうな)がひしめき
その足の下を裸の児童労働者が煤だらけですり抜けていき
その熱で(保冷設備がないので)どんどん食材が劣化し腐臭を放つという
まさに「地獄」のような環境だったそうである…。ブラックすぎるー!!
(ヘンリー8世のごはんは別の場所で分けて作られていたと書いてあり
それはそうだろうと納得…。食材もいいとこだけ使ってたらしい。)
1日の終わりに清掃する人もさぞかし苦労しただろうなあ…。
そんなお肉ばっかり毎日食べて飽きないんですか?と言いたくなるが
ハーブやスパイスで味変したり果物や野菜と食べたりして工夫していたそうな。
果物や野菜の一部は大庭園でも育てられていたそうで、今でも庭師さんたちが
引き続きたくさんの果物や野菜を育てているとのこと。
こちらが貴族の方々の1回のお食事リスト。どんだけ食べるねん!!
ファーストコースとセカンドコースに分かれており、お肉にお菓子に
高脂質高栄養なメニューがずらずらりん。そりゃヘンリー8世太りますわ。
使用人の人の食事(パン、エール、肉)と比べると歴然の差。
中世社会では多彩な肉、野菜、果物、お菓子が食べられる=リッチ
という認識だったため、とにかく種類が多ければ多いほどよかったそうだ。
さて、大調理室を過ぎると、給仕室に入ります。
できあがったご飯を宴会の場所に届けるとともに、
給仕の人たちがご飯を食べる場所でもありました。
リネンなどの洗濯室もあります!!
当時の女性にとっていい職業になったそうだ。
1日何枚のリネンを選択したんだろう…おそろしい。
そしてもちろん、ワインセラー!!
樽がずらずらと並んでおります。こんな広大なワインセラー、
確かに宮殿にしかないですな。ちなみに中世といえば定説では
水が汚すぎて人々はワインやビールを飲んでいたとされてますが
解説によると「ワインやビールはお金を払うから記録に残ってるだけ。
実際は湧き水も普通に日常生活で飲まれていました。この宮殿でも
新鮮な湧き水をパイプを使って運んでいました。」とのことであった。
ちなみに心憎いことにキッチン用品を集めたお土産ショップもある!!
品ぞろえがめちゃくちゃよくて、すっかり長居してしまった…。
大変充実した展示でした
というわけで、すっかり満足してキッチンエリアを後にしたのだった。
(その後、広大な宮殿なので他にも見どころだらけで夢中になっていたら
庭園を観る前に閉館時間になってしまい、泣く泣く退散したのは内緒…)
ちなみに他の展示を見ていたところ、「17~18世紀はフランスにならって
国王の食べる姿を公開することが頻繁に行われていた」との表記が!!
public diningというんだそうだ。国王がおいしそうな食べ物を健康そうに
むしゃむしゃ食べるところを見せることで、国民に威厳を見せるという、
いまでいうソーシャルメディア的な役割を果たした行事だったそうな。
ウィリアム3世という王様はこの行事を非常に嫌いほぼ行わなかったため
国民の人気が非常に低かったそうだ。今の感覚からするとそりゃ嫌だよね
といいたくなるが、見たくなる気持ちもちょっとわかる気もする…!!
とにかく非常に見ごたえのある場所ですので、食事好きな方もそうでない方も
ぜひ英国にいらした際は訪れてみてください!!時間管理にだけお気をつけて!
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