スコットランドの夏を彩る豪華イベント、ミリタリー・タトゥー
ミリタリー・タトゥーというイベントをご存じだろうか。
スコットランドの首都・エディンバラにそびえたつエディンバラ城で
毎年夏に開催される、スコットランド軍楽隊を中心にしたパレードである。
ここでいう「タトゥー」は刺青のことではなく、軍隊の帰営ラッパのことだそう。
非常に人気があるイベントで、少なくとも半年以上前に予約しないとチケットがとれない。
(たとえば2020年は8月7日ー29日開催なので、少なくとも2月には予約する必要がある)
英国に行くことが決まってからずっと行きたかったミリタリー・タトゥー、
私も半年ほど前にチケットを押さえたのだが…いろいろプランが選べるようになっていて、
チケットだけ買うものから、お高いけど夕食がついてきたりするものもある。
うーん…どうしようかな…でも一生に一回のチャンスだし…でも高いし…
ポチ。気づけば私は、Jacobite packageを購入していた。このプランは(高いけど)
エディンバラ城で夕食が食べられ、特別演奏までついてくるプランなのである!!
ちなみに、ジャコバイトというのは(アルバイトの進化系のような名前をしているが)
「ジェームズ派」という意味。イギリスのスチュアート朝が断絶したとき、
スコットランドの人たちはどこのドイツとも知らないハノーヴァー朝王家を嫌い
(さらに、イングランドの圧政にほとほと嫌気がさしていたこともあって)
ジェームズ2世(スチュアート朝最後の王様)の子ども、チャールズさんを支持して
イングランドと戦いを繰り広げたのだ!!残念ながらいろいろ不運が重なったりなんだりで
(チャールズさんがフランスから武器を取り寄せようとしたら船が沈んでおじゃんになったり)
最終的にジャコバイトの人たちは屈辱的な敗北をなめることになるのだが、
スコットランド史の重要な1ページなのだッ!!はあー、楽しみだなあ…。
などと言っているうちに時は過ぎ
そして、8月初旬。私はエディンバラ城の前にいた。
これから、この観客席に座るのか…ついに!!
期待にはやる胸をおさえつつ、案内に従ってエディンバラ城に入城する。
案内されたのは「Jacobite room」。ジャコバイト派ですからね我々は!
華麗な雰囲気にすでにうきうきしていると、突如、バグパイプを吹き鳴らしながら
軍楽隊のお兄さんが歩いてきた!しかもうしろにしずしずとハギスが付き従っている!
「いや、ハギスってなんやねん。リチャード・ギネスの間違い?」と思ったそこのあなた。
ほら、そっと野山をのぞいてみてください…ほら、いましたよ、野生のハギスです。
そうそう、その…右の、それ。なんかラグビーボールみたいなのいるでしょ?
これね、心がきれいな人にしか見えない生き物なんですよ。あなたは運がいいですね。
これを猟師さんがズドンと鉄砲で撃ってね、生きのいいやつを城で提供しているというわけ。
…
うそです。でも本当にこういう展示はあるんですよ!!(@グラスゴーのケルヴィングローブ博物館)
ちゃんとウィキペディアにも古来より伝わる伝説の生き物として掲載されているのであります。
実際には、茹でた羊さんのモツをミンチにして、麦やたまねぎ、ハーブ、油と一緒に
羊さんの胃袋につめこんだ料理がハギス。スコットランドを代表する伝統料理です。
Toast to the Haggisという、1月25日のスコットランドを代表する詩人・バーンズさんの
誕生日にハギスに向かって乾杯する行事があって、それをやってくれたというわけ。
これから始まるディナーコースにももちろんハギスさんが入ってますからね!!
というわけでもちろん我々も乾杯します。えっ、何で乾杯するかって?それはもちろん、
ウィスキーですよ!!ヒック(香りですでに酔っぱらうの巻)
ウェルカムドリンク(シャンパン)もついてくるし半ボトルのワインもあるから
これはミリタリー・タトゥーが始まる前に酔いつぶれてしまう(*^^*)
ディナーコースの始まり
などと焦っているとさっきのハギスさんが前菜として運ばれてきたのだが…
あれー!?なんかオシャレになってるー!?どうしたのハギスさん!!
久方ぶりに会ったワイルド系祖父が片眼鏡の白髪貴族に変貌していたような衝撃!
ま、まあ、お手並み拝見と行こうじゃないですか…
…文句なしにおいしい(><)
ハギスはモツ系ということもありかなり好き嫌いが分かれる料理…であり、
脂っこさやモツ特有のお味を嫌う人も多い(シラク大統領とか^^;)が、
にんじんピュレとじゃがいもピュレの優しい味に挟まれたハギスは
ピリリと効いた胡椒とともにモツならではの複雑なうまみを遺憾なく発揮。
かかっているウィスキーベースのソースが上品な香りを鼻腔の奥に吹き込む。
それはまるでバグパイプの音色のよう。どこか哀切な麗しの調べ…
気づけばきれいに完食していた。ありがとう、ハギスさん、永遠なれ!!
続いて運ばれてきたのはメインの鳥の胸肉のソテー。見た目はおいしそうだが…
おいひーい!!(><)
パリっと焼かれた皮、しっとりとした胸肉、
付け合わせのトマトやお豆さんも新鮮でパクパクいけちゃうぞ!!
まじめにイギリスでこれまで食べてきた鶏肉の中でも
一、二を争うおいしさである。これがスコットランド…!!
かなりお腹がいっぱいになってきたので少し外の空気を吸いにいくと
おや?どこからかバグパイプの音色が…と思ったらなんと、
夕食会場の目と鼻の先で軍楽隊さんたちが練習中だった!
これは贅沢(^^)やっぱりバグパイプいいな…。
見た目も構造も明らかに「難しい楽器」そのものだけど…。
絶対吹けない自信あるけど…。肺活量ゼロですけど…。
外の空気を吸って少しお腹がこなれたので、戻ると、
おいしそうなチョコレートケーキさんがご来場!!
めっちゃお腹いっぱいだったけどこれは食べちゃうな―
困ったな―太っちゃうな―でも出されたから仕方ないよねー
まったり濃厚なチョコの味が口内に広がる…ホイップふわっ
添えられたクッキー&パフがサクサク、いちごじゅわっ
…そりゃおいしいやろ(><)
てっきりイベントディナーだからそこそこだろうとか思ってすみません、
めっちゃくちゃ美味しかったです…スコットランドよ永遠なれ
ミリタリー・タトゥー!
すっかり満足してしまったが、ここからがいよいよ本番。
そう
ミリタリー・タトゥー
の はじまりだ!!
アナウンスのおじさんが「今日は晴れの予報だぜ!」と言うと
みんなが「イエーイ!」と答える(※)。始まる前からすごい一体感だ。
(※)エディンバラは気候が不安定なので、晴れはとても嬉しいのである
いろんな国から来ている人たちが、高揚感と期待感で一つになっている。
そして…会場の照明が落ち…
最初に演奏されたのは「Scotland the brave」。
スコットランドの非公式国歌で、勇壮なメロディだ。
スコットランドの土産もの屋で売っているマグネットとかは
押すと100%の確率でこのメロディを流すので、知っていた、が、
いざこの大人数の軍楽隊に、圧倒的な音量で、バグパイプを生演奏されると、
正直めちゃめちゃ感動する(><)※涙出ました
今私はスコットランド人…!!わが祖国…!!
もうオープニングの時点でスーパー感動感涙必至なのであるが
海外の軍楽隊の皆さんも来ていてそれぞれ違ったパレードを披露してくれる。
ドイツ、フランス、トリニダード・トバゴ、中国、フィンランド、
さらにはイングランド…軍楽隊のパレードという印象からは打って変わって、
会場を貫くのは協調的で平和的で、あたたかで穏やかで、やさしい空気。
ビール飲んで見せたり(ドイツ)、フレンチカンカン踊ったり(フランス)、
ダンサーが激しく踊ったり(トリニダード・トバゴ)、雪降ったり(フィンランド)、
巨大な太鼓をたたいたり(中国)、スコットランドと一緒に更新したり(イングランド)…
「みんなちがってみんないい」の世界がそこに顕現していた。
夢中になって鑑賞してうちに、いつの間にか暗くなり。
花火も上がり、会場の一体感はクライマックス。
そして、最後に演奏されたのは、「蛍の光」。
そう、「蛍の光」は、スコットランド民謡なのである!
これもまた非公式な国歌であり、友情を熱く歌い上げる歌詞だ。
これをなんと、会場のみんなで手をつないで歌うのである。
普段だったら気恥ずかしくてできないだろう。でも、今は違う。
違う国がみんな仲良くなんて、そんなうまくいかないことはわかってる。
でも、今この瞬間は、どこの国の人もおんなじ気持ちを共有している。
どこか物悲しい「蛍の光」のメロディが、澄んだ夜空に溶けて消えていった。
今回の「おいしい度」判定
文句なしの「☆5」です持ってけどろぼー!!(号泣)
あまりに心を打たれたんでScotland the braveを聴くたびに
ほろりと来てしまう後遺症を発症したのでありました。
(おみやげ屋で音楽聞けるマグネットも購入しました^^)
来年のチケットは12月から発売されますので、もし8月、
英国に行かれる御用がある方は、ぜひぜひミリタリー・タトゥーを!
絶対に忘れられない思い出がそこにあります。
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